犬がヒトの家畜となったのは1万年以上前であり、犬はヒトの最古の伴侶動物であることがDNAの解析から判明しつつあります。最近では、飼い主がストレスを感じた時、犬も同じ気持ちになったり(情動伝染)、犬との視線や身体接触により、犬と飼い主双方のオキシトシンが分泌されたりすることもわかっています。オキシトシンは、精神的な安らぎを与えると言われる神経伝達物質のセロトニン作動性ニューロンの働きを促進することでストレス反応を抑え、人とかかわる社会的行動への不安を減少させると考えられているホルモンです。

見知らぬ人にトラウマ体験を話すことは、多くの人にとって再外傷体験になり得ます。その時、様々な生理的・心理的なトラウマ反応が起こり、話をすることが難しくなることもあります。子どもが話をすることが難しいと、子どものトラウマからの回復のために必要な措置をとることが困難になります。

トラウマ反応により、子どもが恐怖で圧倒され解離状態になると、「今、ここ」にいない状態になります。そんな時に、寝そべる犬を撫でることで、五感を使って「今、ここ」に戻り、落ち着き、一緒に撫でることで面接官を信頼し、ラポールを形成しやすくなることにつながります。犬に水を与えたり、リードを持って散歩をしたりすることで、子どもの自信につながり、自己コントロール感にもつながります。

子ども自身は自分のトラウマのトリガーなどに気付いていないことも稀ではなく、トラウマ症状を自覚していないこともあります。特に虐待が背景にあると、周囲の大人も子どもに十分に関われていないことが多く、トラウマ症状に気づかれず、必要なケアにも繋がっていないこともあります。そのため、子どもたちがトラウマ体験について話をする時には、その時点で見える「症状」や「状態」を超えた配慮が必要です。

犬の存在は子どものストレスを軽減させることが科学的にも証明されています(Beetzら、 2011)。アメリカのコートハウス・ファシリティドッグを介して、性被害を受けて司法面接を受けた子どもへの調査で、CACでの司法面接に訓練された犬が付き添った際に、心拍数や血圧の低下など、生理的・心理的ストレスが著しく軽減され、子どもたちがより安全で落ち着いた気持ちになることが示された研究結果もあります(Krause-Porelloら、2018)。面接室のソファで子どもの隣に犬が穏やかに寝ていると、子どもの不安が低下し、安全感や安心感が増すのです。ファシリティドッグの存在がラポール形成に有効であることも証明されています(Spruin ら、 2020)。

また、効果的なラポール形成は、証言の正確性(Hershkowitz、2011)、完全性(Wood ら、1996)、誤解を招くような質問に対する耐性(Robertsら、2004; Woodら、1996)を高めます。

コートハウス・ファシリティドッグの存在は、子どもの心理的負担を軽減し、聞き取りの質を高める可能性があります。付添犬でも同様の効果が期待されます。

今までの実施での付添犬同行による効果として、「犬がいてくれるなら」と話す力になったり、何も言わずにただひたすら犬を撫で続け、話したことによる傷つきを癒したり、話した時の出来事を思い出した時に「ワンちゃんがかわいかった」と語り、聴き取りが長時間に及んでも犬と触れ合って待つことで証言をし続ける力になったりしています。

また、2022年7月21日に付添犬に関する本を出版いたしました。子どもたちと関わってきた弁護士・医師・獣医師などの大人たちが子どもたちを助けたいと手を取り合い、悪戦苦闘しながらこの「付添犬」事業を立ち上げる実話をもとにしたストーリーです。
詳しくは下記URLからご覧ください。

【本の詳細はこちら】
https://www.shogakukan.co.jp/books/09227265